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仙台高等裁判所 昭和58年(行ス)3号 決定

抗告人

川上千代子

外九名

右抗告人ら代理人

増田隆男

阿部泰雄

相手方

仙台市建築主事

高橋暉雄

右代理人

渡辺大司

勅使河原安夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

記録中の各証拠資料によると、次の事実が認められる。

丸紅株式会社東北支店は同社所有の仙台市向山一丁目三〇番、三二番一宅地公簿面積合計2505.40平方メートルに五階建マンション「ファミール向山」の建築工事を株式会社本間組に請負わせて施行することとし、昭和五七年一月下旬相手方に対し建築確認申請書を提出した。これより先、本間組は昭和五六年一〇月頃仙台市開発局建築部開発審査課に対し本件建築工事が都市計画法による開発行為の許可を要するものであるか否かについて問合せをした。同課は現地を調査した上同月三〇日頃、右工事は都市計画法上の開発行為に当らないから同法二九条による許可を要しない、との判断をし、その旨本間組に回答した。同課は昭和五七年五月下旬、丸紅株式会社提出の前記建築確認申請書の「その他必要な事項」欄に「開発行為に該当せず―開発審査課」と記載し、担当者の押印をした。同年六月二日相手方は本件建築確認処分をした。

右のように認められる。

抗告人らは、本件建築工事は都市計画法上の開発行為に当るから同法二九条による許可を要するのに、右許可のないままなされた本件建築確認処分は違法である旨主張する。しかし、建築主事の審査の対象は「申請に係る建築物の計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するかどうか」(建築基準法六条三項)であり、当該建築行為が都市計画法上の開発行為に当るか否か、当るとして同法二九条の許可をするか否かは建築主事の審査の権限に属しない。右開発行為の許可は都道府県知事(仙台市の場合は知事の委任を受けた仙台市長。具体的には開発許可担当部局)の権限に属するものであり、建築主事としては、建築確認申請の審査に当り、開発行為の許可に関する開発許可担当部局の処分ないし判断の存否を審査すべく、かつ右の限度にとどまるべきである。建築主事は開発許可担当部局の処分ないし判断の適否に立ち入ることはできない。本件においては、開発審査課において、建築主事の審査に先だち、本件工事は都市計画法上の開発行為に該当しないと判断し、その旨建築確認申請書に記載しており、建築主事は、本件建築確認処分に当り、開発審査課の右判断の存在を確認して、右建築確認処分をしている。したがつて、本件建築確認処分には抗告人ら主張の違法は存在せず、この点の主張は採用できない。

次に、抗告人らは本件確認処分の建築基準法施行規則一条六項違反を主張するが、本件では開発許可担当部局において本件工事は開発行為に該当しないと判断しているのであるから、右条項の「証する書面」の添付がないのが当然であり、抗告人らの右主張は採用できない。

更に、抗告人らは本件建築工事の敷地内に仙台市所有地が含まれているから本件確認処分は違法である旨主張するけれども、建築主事は、建築確認申請の審査において、建築工事の敷地の私法上の権利関係について審査する権限も義務も有しない。建築主が右敷地について所有権、借地権などを有しないとしても、そのことは建築確認処分に対し何の影響も及ぼさない。したがつて、抗告人らの主張は失当である。

以上により、抗告人らの本件執行停止の申立は、本案について理由がないとみられることから、この余の点について判断するまでもなく失当である。

よつて、本件申立を却下した原決定は相当であつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり決定する。

(佐藤幸太郎 石川良雄 宮村素之)

別紙

抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、被申立人(相手方)が昭和五七年六月二日付、第一〇二七三号で行なつた建築確認の効力を停止する。

との決定を求める。

抗告の理由

一、開発行為の許可の要否について

原決定に於ては、本件の場合にそもそも開発行為の許可が必要であるか否かについての判断を回避している。

これは、何故であろうか。

それは、原審に於て提出された疎明資料、証拠書類および本案事件で取調べられた証人浅野多久治の証言により既に開発行為の証可が必要な事案であることが、余りにも明白となつたからである。

本件建築敷地のうち、向山一丁目三二番の一、九九一、五八平方メートルは、昭和五六年六月一二日に畑地より宅地に地目の変更がなされている。そして、現況としても、仙台市自身が現地調査のうえ作成した、都市計画図(甲第四五号証)に於ても同地は「Ⅴ」のマークにより畑として使用されていたことが明らかとなつているのである。

昭和四四年一二月四日付建設省都市局長及び計画局長名の通達からして、本件敷地は、一見明白にして開発行為の許可が必要な土地である為に、本案の原審法廷に於て開発部局の最高責任者である浅野証人は、代理人の質問に対し、小学生でも知つている「Ⅴ」のマークが何であるかにつき「わからない」と答えざるを得なかつたのである。

原審の本案裁判所は、既に開発行為の許可の要否についての実体審理に入つているのであり、その中で右の様な事実が解明されているのである。

にも拘らず、この点に関する判断を回避する必然性がどこにあるのか、後述する点からしても、全く理解に苦しむところである。

二、事実認定の誤り

原決定は、本件工事の建築確認申請をめぐる事実関係についての事実を認定するにあたり、疎甲第一三号証、浅野多久治証言、調査嘱託に対する回答書を裏付けとしている。

そして、実際には、ほとんど全ては、右調査嘱託に対する回答書をそのまま踏襲しているといつてさしつかえないであろう。しかしながら、右回答書の内容は、その回答をなした部局の責任者である浅野多久治の証言により、全て崩れ去つており、救いようがないのである。

もし、仙台市開発局建築部開発審査課が相手方(被申立人)との間で、昭和五七年一月末から同年六月二日に至るまで、数回にわたり、本件工事に関し、「開発行為の許可の要否」についての「連絡調整」を行なつたのだとすれば、浅野証言から明らかなように、本件の場合、当然、開発行為の許可が必要という連絡が相手方になされるはずであつた。そしてそのような連絡がなされたからこそ、確認まで五カ月余りもかかつていたのである。

従つて、右「連絡調整」というのは、実際には、本件が明白に開発行為性を有している事実をつきつけられて、それをいかに隠そうかと画策した一部幹部の動きを示すものでしかないであろう。

真実は、前項で述べたように、本件敷地は農地であり、開発行為の許可が必要なケースなのであるから、連絡調整があれば、最初は、「許可の要なし」としたとしても、その後は、「許可必要」と指導変更しなければならないのである。

本件の前提として、仙台簡易裁判所に於てなされた調停に於て、昭和五七年四月はじめ、相手方の代理人である勅使河原弁護土は、開発行為の許可の要否について「現在のところ全く白紙の状態である」と述べていたのであり、昭和五六年一〇月段階での判断など全く問題とならないのである。

いずれにしろ、原決定の事実認定は、全く証拠の裏付けもなく、一見して誤りであることが、明らかな事実を真実として決定しており、万人の納得しうるものではない。

三、審査の対象について

原決定は、開発行為の許可の要否と建築主事の審査権限の関係につき、つぎのように述べる。

「建築確認の申請に先立つて都市計画法上開発行為の許可の権限を与えられた都道府県知事ないし市長が当該建築計画について、許可を要しないと判断しており、かつそのように判断されたことが、建築主事において顕著である場合には、建築主事は審査にあたり、右判断の適法不適法に立ち入ることなく、当該建築計画が都市計画法二九条の規定に適合しているものと確認すべきであり、また、建築主事の審査の範囲は、それをもつて足りるものというべきである。」

開発行為の許可権限を与えられた者の許可の要否に関する判断の有無が「建築主事において顕著」でない場合など、考えられ得るであろうか。許可権者の判断の有無は常に「顕著」である。「顕著」でないのは、その判断の内容であり、適否にすぎないのである。

原決定の論理をつきつめれば、都市計画法二九条以下の諸規定への適合性は、建築主事の確認の対象外であると断じているにすぎず、法令の解釈を完全に誤つているだけである。(しかし、後に原決定は、「確認の対象外ではない」と述べるので、明らかに論理矛盾を犯している。)

原決定は、続けて、次のように述べる。

「もし、申立人らが主張するように、許可権者により、当該建築計画が許可不要との判断がなされているのに、なお建築主事が確認申請の審査において、独自にこの点の検討をし、開発行為にあたるものであり、しかも許可を要するとして、該許可を得てこない限りは、建築ができない結果となり、開発行為等の規制を前記特定の許可権者の専権に委ねている都市計画法第三章の都市計画制限の制度の趣旨を没却することになるからである。」

都市計画法二九条の規定について適合していることが、建築確認の要件となることが確認され、都市計画法施行規則の一部を改正する省令(昭和四四年十一月一三日建設省令第五三号)附則第二項により、建築基準法施行規則第一条に第五項(現在は第六項)を加える改正が行なわれたために、右のような開発部局と建築確認部局の判断が異なる可能性は当然予想されているのである。

従つて、その点での混乱をさける為、昭和四四年一二月四日付の通達(都市計画法による開発許可制度の施行について建設省計宅開発第一一七号、建設省都市計発第一五六号)などで「開発許可担当部局においては、建築確認担当部局との緊密な連絡体制を確立し、これらの規定に従つて適確な事務処理を図るよう、とくに留意すること」と指導されているのである。「連絡調整」活動というものは、当然判断の内容に立入つていることが前提であり、そうでないとするならば、数回にわたり、「連絡調整」なるものをする必要が一体どこにあるのか。都市計画法は、無秩序な市街化と人の集中を抑制し、良好な市街化の計画的、段階的な整備を図ることを目的として開発許可制を採用しているのであり、このような観点からすれば、原決定のように解することが、都市計画法第三章の都市計画制限の制度趣旨を没却するものと批判せざるをえないのである。

四、建築基準法施行規則一条六項について

原決定の判断一の3に於て右に定める書面については、許可を要しないと判断している場合は予定外であるとする。

ただ、都市計画行政と建築確認行政の連携をはかる目的のものであることを徹底させて考えれば、開発行為の許可を要しない旨の判断をした場合も明白に開発行為といえない場合を除き適合性を証する書面として添付する必要があると解せないでもないとする。これは、申立人がわざわざ紹介したこの問題についてのほぼ唯一の参考例と思われる東京都港区高輪タウン開発(株)マンション事件の東京都建築審査会の裁決例(甲第三四号証)を意識したものであろう。

しかし、原決定は、右裁決例の内容を充分読まなかつた為に理解ができなかつたものと考えざるをえない。

右裁決例に於て、審査会は職権により調査したところ、昭和四八年一二月二〇日付で、開発許可担当部局は、「本件については、都市計画法第四条に規定する区画形質の変更がないので同法第二九条に基づく開発許可は、必要としません」との文書回答をしていることが明らかとなつているのである。

すなわち、開発許可担当部局が開発許可の必要としない理由に立ち入つて示しているのである。もし、建築主事が何ら確認の対象として判断する権限を持たないのであれば、結果のみを伝えれば済む。

従つて、このような前提のもとに、右裁決例は、「開発行為についての開発許可担当部局の判断は、充分に尊重信頼できる」として、法施行規則第一条第五項(第六項)の適用なしとしているのである。開発担当部局の「区画形質の変更がない」との具体的理由が示されている以上、これを尊重するというのは、「連絡調整」による運用としては適切であろう。すなわち、開発行為の許可については、実体的判断を前提にして「明らかに開発行為でないものについてまで義務づけていると解する必要はない」としているのである。

しかるに、本件の場合はどうなのか。

本件の場合は、「明らかに開発行為」に該る場合であることは、争いようがないのである(であるからこそ、原決定は判断をさけたのであろう)。行政による一見明白なる不正は必らずチェックされ、正されなければ国民の行政に対する信頼は保持できない。行政訴訟は、そのチェック機能を果すものであるし、執行停止の制度は、それを有効に働かせるものである。

従つて事実認定上も法令解釈上も全く誤つている原決定につき破棄されることがないとすれば著しく正義に反する結果となるであろう。

抗告の趣旨のとおりの決定を求めるものである。

【参考・本案昭和五七年(行ウ)第五号、建築確認取消請求事件】

申立人

川上千代子

外一一名

右申立人ら代理人

増田隆男

阿部泰雄

被申立人

仙台市建築主事

高橋庄治

右代理人

渡邊大司

勅使河原安夫

〔主文〕

一 本件申立を却下する。

二 申立費用は申立人らの負担とする。

〔理由〕

(当事者の申立及び主張)

一 申立人らは、「被申立人が申立外丸紅株式会社東北支店の申請につき昭和五七年六月二日付第一〇二七三号で行つた建築確認の効力を本案判決の確定に至るまで停止する。」旨の裁判を求め、その理由として次のとおり述べた。

「申立外丸紅株式会社東北支店によるマンション『ファミール向山』建築工事(以下「本件工事」という。)は都市計画法二九条の開発行為の許可を受けるべきものであるのに、その許可がないままこれに対し被申立人が申立の趣旨記載の建築確認処分(以下「本件確認処分」という。)をなしたのは違法であり、また本件工事の建築確認申請に際し、申請人が都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面を添付しなかつたのに、その事実を無視して被申立人が本件確認処分をなしたのは建築基準法施行規則一条六項に違反する違法がある。

また本件工事の予定地内には、仙台市向山一丁目三二番の六、同三一番の一、同三〇番の一の三筆の仙台市所有地が存在することが、本件確認処分に先立つて周辺住民らから指摘されていたにもかかわらず、これを無視して本件確認処分がなされたものであることからみても、右処分は違法である。

以上の点から本件確認処分は取消されるべきであるが、取消訴訟の本案判決を待つていては、本件工事が進行し、マンションの建設によつて周辺住民である申立人らが道路幅員の不足、給排水施設の不備、工事敷地内の亜炭廃坑の放置その他の点で回復し難い居住環境の悪化、危険の発生等の損害をこうむるおそれがあるので、本件確認処分の効力を停止する緊急の必要がある。」

二 被申立人は主文第一項と同旨の決定を求め、その理由として次のとおり述べた。

「本来都市計画法二九条の開発行為の許可とその必要性及び内容の審査をなす権限は、都市計画法上明らかに仙台市長にあるのであつて、被申立人には存在しない。また建築基準法施行規則一条六項に定める都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面を申請書に添えなければならないとする趣旨は、行政の整合性のためにすぎず、あらかじめ開発許可を権限のある行政庁(本件の場合仙台市長)によつて審査を受けさせ、その許可を受けたことまたは許可の必要でないことの書面を建築確認申請書に添付させることにしているものである。本件については建築確認申請書に「開発許可の必要がない」旨の記載が許可権限のある仙台市長により記載されており、被申立人はこれを建築基準法施行規則一条六項による添付書面として処理したものであつて、何らの違法はない。

さらに建築確認にかかる本件工事の予定地内に仙台市所有地が含まれているか否か、またはその土地所有権が何人に属するかなどの、土地に関する民法上の権限の有無については、本来建築主事の審査すべき権限でも義務でもない。

以上の点から本件はその本案について理由がない。

また本件確認処分の効力が存在することそれ自体によつて、ただちに申立人らに回復の困難な損害が発生するものではないし、本件確認処分の効力を停止する緊急の必要もないので、本件は執行停止の必要性がない。」

(当裁判所の判断)

一 開発行為の許可に関して

1 本件工事の建築確認申請をめぐる事実関係について、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が疎明される。即ち、申立外丸紅株式会社東北支店は申立外株式会社本間組を工事請負人として本件工事を施行することとし、敷地買収等の準備を進めたうえ、昭和五七年一月二七日建築確認申請を被申立人に行つたのであるが、これに先立ち本間組は昭和五六年一〇月頃仙台市開発局建築部開発審査課に対し、本件工事が開発行為の許可を要するものであるか否かについて問合わせをし、同課はこれに対し現地調査のうえ同月三〇日頃都市計画法四条一二項の開発行為にあたらないから許可を要しないとの判断をなし、その旨本間組に回答していた。そして同課は昭和五七年五月二五日頃には、丸紅から被申立人に提出されていた建築確認申請書の「その他必要な事項」欄に「開発行為に該当せず―開発審査課」との記載をしたうえ担当者の押印をした。またこれと前後して同課は、同年一月末から同年六月二日に至るまで数回にわたり、被申立人との間で、本件工事に関し関発行為の許可の要否についての連絡調整を行つた。その後同年六月二日本件確認処分がなされた。

以上の事実が認められる。

2 申立人らは、本件工事が開発行為にあたらず、許可を要しないとした仙台市の開発審査課の判断には誤りがあるとし、それを前提に前記の如く開発行為の許可がないままなされた本件確認処分は違法である旨主張するのであるが、前認定のように建築確認の申請に先立つて都市計画法上開発行為の許可の権限を与えられた都道府県知事ないし市長(具体的にはその権限を分掌する開発許可担当部局)が、当該建築計画について許可を要しないと判断しており、かつそのように判断されたことが建築主事において顕著である場合には、建築主事は審査にあたり、右判断の適法不適法に立ち入ることなく、当該建築計画が都市計画法二九条の規定に適合しているものと確認すべきであり、また建築主事の審査の範囲はそれをもつて足りるものというべきである。けだし開発行為の許可不許可の権限が都道府県知事ないし市長にあることからみれば、その前提となる当該建築計画が許可を要するものであるか否か(都市計画法四条一二項の開発行為の定義にあてはまるか、また同法二九条ただし書の除外事由に該当しないか)の判断の権限も同じく右許可権者に属するものと解さざるを得ないからである。即ち、もし、申立人らが主張するように許可権者により当該建築計画が許可不要との判断がなされているのに、なお建築主事が確認申請の審査において独自にこの点の検討をし、開発行為にあたるものであり、しかも許可を要するとして該許可を得てこない限り確認をしないというが如き処理をなし得るとすれば、結局、現実において、許可権者の右判断にかかわらず、許可を受けない限りは建築ができない結果となり、開発行為等の規制を前記特定の許可権者の専権に委ねている都市計画法第三章の都市計画制限の制度の趣旨を没却することとなるからである。

なお、右のように解することは、都市計画法二九条以下の諸規定への適合性が建築主事の確認の対象外であることを意味するわけではない。当該建築計画が、開発行為として許可されたものである場合はもちろんのこと、それ以外の場合にも同法二九条その他の規定への適合性が確認の対象となるものではあるが、いずれの場合も建築主事は許可担当部局の権限にかかる事項に立ち入つて審査することはできないのであつて、単に右部局の処分ないし判断が真に存するか否かを審査し、その限度で適合性を判断しうるにとどまると解すべきなのである。

従つて、本件工事につき開発行為の許可がないのに本件確認処分をしたのは違法であるとする申立人らの主張は失当であり採るを得ない。

3 次に本件工事の建築確認申請に際し申請書に建築基準法施行規則一条六項の定める都市計画法二九条以下への適合性を証する書面の添付がなかつたとの点についてであるが、同書面は許可があつた場合において許可担当部局の交付する許可証や都市計画法三六条二項所定の検査済証、同法三七条ただし書に関する書面等をいうものであるから、本件の如く建築確認申請前に右部局が許可を要しない旨判断している場合は、前記規則一条六項の予定外であつて同条項の適用はないものである。従つて、申立人らの同条項に違反する旨の主張は理由がない。

あるいは、建築主事が確認の審査をするについては、同条項が都市計画行政と建築確認行政の連携をはかる目的のものであることを徹底させて考えれば、開発許可担当部局による開発行為の許可を要しない旨の判断も都市計画法二九条への適合性の問題であるから、建築確認を申請する者は明白に開発行為といえない場合を除き、右判断を証する書面を建築基準法施行規則一条六項にいう適合性を証する書面として確認申請書に添付しなければならないと解する余地もないではない。しかしながら仮にこの見解に立つとしても、本件においては右条項の違反を理由に確認処分を違法とすることは、やはりできないといわなければならない。けだし本件においては、前記認定の如く被申立人は確認申請受理後である昭和五七年一月末から数回にわたり開発審査課と連絡をとり、同課の判断を確かめたうえ本件確認処分をなしたものであつて、前記規則の目的とするところは、申請書受理後において十分に果たされていると認められるからである。

二 市有地の存在について

申立人らはさらに、本件工事の敷地に仙台市の市有地が含まれているから本件確認処分は違法である旨主張するけれども、およそ建築確認申請の審査においては、建築工事の敷地の私法上の権利関係について建築主事が確認の権限ないし責務を有するものではないから、申立人らの右主張は失当である。

三 結語

以上によれば、申立人らの本件申立は、本案について理由がないとみられることから、その余の点について判断するまでもなくその理由がないとしてこれを却下することとし、申立費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(武田平次郎 河村潤治 林正宏)

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